小さい頃。一度だけ、たった一度だけ。カメラを持っていない父と出かけたことがあった。どこに行ったのか、何をしたのか、まったくもって覚えていない。だからもちろん、父がその日なぜカメラを持っていなかったのかなど、覚えているはずもなかった。きっと、気まぐれか、忘れ物か、そのあたりだろう。
小さいころからよく、いろんなところに連れて行ってもらってはいた。公園に動物園、植物園に水族館、美術館に寺社仏閣……地方にも、海外にも何度か行く機会があった。「恵まれている子供」といえば、そうだったのだろう。
ただ正直、それぞれの場所に何があっただとか、どんなことがあっただとか、そういったことはまったくもって覚えていない。興味がなかったわけじゃない。むしろ自分は、知らないものやわからないものに対する興味は人一倍ある方だと思う。ただ……僕が何かを持った時、何かに触れているとき、何かを知ったとき、父は必ずカメラを持っていた。どんな時でも、カメラを持っていた。
どこまでも、彼は仕事人なのだと思った。